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8.初代 田中久重、藤岡市助、二代 島津源蔵│父と呼ばれた日本人

🔵近代重工業、電気、蓄電池……技術立国日本の礎を築いた3人の「日本のエジソン」

日本が近代化へと進む過渡期、「発明の父」と呼ばれる技術者たちが工業立国の屋台骨を支えました。その筆頭格が「日本(東洋)のエジソン」と呼ばれた初代田中久重、通称「からくり儀右衛門」です。久重は和時計の最高傑作といわれる万年自鳴鐘(万年時計)、手押しポンプ式消火器、国内初の実用的な蒸気船といわれる「凌風丸」など、最先端科学技術を駆使した実用機械を次々に製作しました。

1873(明治6)年に73歳で上京した久重は、日本初の民間機械工場を開業し、電信機、報時器、電話機などを製造します。この工場がのちの東芝へと発展を遂げるのです。近代機械工業の開拓者にして重工業の基礎を築いた初代久重は、「近代重工業の父」と称されています。

東芝は芝浦製作所(前身は久重の工場)と東京電気の合併により1939(昭和14)年に誕生しました。東京電気の創業者・藤岡市助も「日本のエジソン」の異名を持つ技術者です。

1881(明治14)年に工部大学校(現・東京大学工学部)電信科を首席で卒業し、27歳の若さで教授補に就任した藤岡は、訪米して「発明王」トーマス・エジソンによる電話機と白熱電球に強い衝撃を受けます。そして、エジソンからアドバイスを受けました。

「日本を電気国にするのは、大変よいことだ。だが一つだけ忠告しておこう、どんなに電力が豊富でも、電気器具を輸入するようでは国は滅びる。まず電気器具の製造から手がけ、日本を自給自足の国にしなさい」

帰国した藤岡は白熱電球や自家発電装置の製造、電力供給体制の拡充に尽力し、1886(明治19)年、日本初の電力会社・東京電燈(現・東京電力)が開業します。また、空中配線による営業用点灯の開始など、先駆的技術による不朽の功績を残します。

さらに、「自給自足」というエジソンのアドバイスに従い、国内初の白熱電球を完成させるほか、路面電車、当時の超高層建築物「凌雲閣」の電気モーター式エレベーターなど国内初の事業を実現したことにより、「日本電力界の父」「日本電気産業の父」とも称されます。

そしてもう一人、「日本のエジソン」と呼ばれた人物がいます。島津製作所の二代島津源蔵です。正規の理化学教育は受けずとも「観察と実験」を信条に研究に明け暮れた生涯で最大の成果の一つが、国内初の医療用X線装置です。ドイツのレントゲン博士が放射線(X線)を発見すると、島津はわずか11カ月後にX線写真の撮影に成功しています。

もう一つが、今日の移動通信技術の世界初の実用化といわれる蓄電池開発です。日本海軍の艦船用無線通信には電源確保という課題がありましたが、島津の蓄電池開発が日露戦争で日本海海戦の大勝利に貢献したといわれています。

その後、蓄電池の原料に最適な亜酸化鉛の革新的製造法を発明して工業的生産を飛躍的に拡大させたことが世界に認められ、島津は「蓄電池の父」と称されます。島津が取得した特許の数は12カ国、178件にのぼります。まさに発明に明け暮れた生涯でした。

(C)【歴史キング】

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関連する書籍のご紹介

本のご紹介

小説 田中久重 明治維新を動かした天才技術者 / 童門 冬二 (著)

 (集英社文庫) 文庫 – 2013/3/19

東芝の創始者・田中久重の波瀾万丈の人生
幕末期、自力で数々の精巧なからくり人形を作り上げ「からくり儀右衛門」と呼ばれた田中久重。その才に目を付けた佐賀藩は、蒸気機関などさまざまな最先端技術の実現にあたらせるが…。


本記事では、こうした「父」と呼ばれた偉人1000人超のリストから、特に近代日本の産業界に大きな貢献をした「父」の功績をたどりつつ、「父」なる称号の持つ意味について考えたいと思います。

歴史キング

目次

1.後藤新平

「台湾近代化の父」「都市計画の父」など │7つの称号を冠された医師、政治家としての信条

2.長州五傑

「工学の父」「造幣の父」「鉄道の父」など│ 殖産興業策を主導した「長州五傑」

3.薩摩藩英国留学生

「維新の父」の遺志を継いで近代化を実現した│「大阪財界の父」「電気通信の父」「ビールの父」

4.渋沢栄一、大原孫三郎、武藤山治

「社会の公器」としての企業の存在意義と経営の模範を示した│「近代日本資本主義の父」「近代経営の父」

5.小栗忠順

海軍と殖産興業の土台を築いた│明治国家誕生の「ファーザーズ」「日本近代化の父」

6.前田正名

日本全国を練り歩き在来産業の振興に人生を捧げた「殖産興業の父」「明治産業の父」

7.江藤新平、山田顕義、児島惟謙

民生の安定と人権確立に尽くした│「近代日本司法制度の父」「日本近代法の父」「司法権独立の父」

近代重工業、電気、蓄電池……│技術立国日本の礎を築いた3人の「日本のエジソン」

9.豊田佐吉、豊田喜一郎

「発明の父」「大衆車の父」機械産業と自動車産業における偉大な父子

10.赤松則良、上田寅吉、渡辺蒿蔵

日本初の洋式軍艦と東洋一のドックを建造した3人の「日本造船の父」

11.片寄平蔵、屋井先蔵

産業の近代化から重工業化へのエネルギー基盤を築いた「石炭の父」と世界初の発明を成した「乾電池の父」

12.今泉嘉一郎、渡辺三郎、石原米太郎

「鉄は国家なり」を導いた群馬県出身の3人の鉄鋼の父

13.志田林三郎、小花冬吉、辰野金吾

電気工学、鉱業、近代建築の各分野で「父」と称される工部大学校第1回卒業生

14.山田脩、高橋長十郎、山辺丈夫

製造立国の先駆けとして世界市場を席巻した「日本近代紡績業の父」

15.本木昌造、ジョセフ・ヒコ、岩谷松平

新しい産業を生み出した「近代活版印刷の父」「新聞の父」「近代日本のPRの父」

16.上野彦馬、下岡蓮杖、田本研造

内戦から文明開化に至る激動の時代を記録した日本写真界の三大先駆者

17.柳沢謙、熊谷岱蔵、山極勝三郎

幻のノーベル賞といわれた日本医学界大恩人の偉業│「日本病理学の父」「結核撲滅の父」

歴史キング

【特別コンテンツ】

18.47都道府県ゆかりの「父」たち

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