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香川県の偉人:奈良専二 — 「農をもって国を興す」8歳で発明家となった明治三老農の一人

プロフィール

奈良 専二(なら せんじ)
1822年10月27日生│1892(明治25)年5月4日没(69歳)
「明治の三老農」

「農をもって国を興す」 

この信念を胸に、生涯を農業技術の改良と指導に捧げた男がいました。香川県三木町に生まれ奈良専二(なら せんじ)です。

彼は、船津伝次平(群馬)、中村直三(奈良)とともに「明治の三老農」と称された伝説的な篤農家(熱心な農業研究家)です。 驚くべきは、その早熟な才能と、晩年になっても衰えぬ情熱です。わずか8歳で運搬具「猫車(ねこぐるま)」を発明し、60歳を過ぎてから上京して全国指導に乗り出し、最後は遠く秋田の地で農業に殉じました。

近代農学が入ってくる以前に、経験と観察だけで品種改良や農具の発明を成し遂げた「農業維新の父」、奈良専二の生涯を紐解きます。

8歳の発明家と「奈良稲」の誕生

奈良専二は、文政5年(1822年)、讃岐国三木郡池戸村(現在の香川県木田郡三木町)の農家に生まれました。 幼い頃から観察眼が鋭く、わずか8歳の時に、一輪車の運搬具である「猫車(ねこぐるま)」を考案したと伝えられています。猫のように狭いあぜ道でもスイスイ通れることから名付けられたこの道具は、労働負担を劇的に軽減しました。

📌 品種改良と農具開発

青年期になると、彼は「多収穫」を目指してイネの品種改良に没頭します。田んぼの中から優れた株を選抜・淘汰する方法を繰り返し、幕末には「奈良稲」「奈良糯(もち)」といった新品種を開発。これらは収量が多く品質も良いため、近隣の農家に広まりました。

また、明治元年(1868年)には、牛に引かせて土を砕く「日雇倒し(ひやといたおし)」という画期的な砕土器を発明。従来の人力作業に比べて6倍もの効率を実現し、讃岐の農業経営に革命をもたらしました。

60歳からの挑戦:東京、そして全国へ

専二の情熱は、老いてますます盛んになります。 明治16年(1883年)、62歳になった彼は「井の中の蛙で終わってはいけない」と決意し、家族に黙って上京します。

東京では、津田仙(津田梅子の父)らと交流して西洋農学を学びつつ、三田育種場や千葉県、茨城県で農業指導にあたりました。彼の指導は、単なる技術論だけでなく、「勤労の精神」を説くものであり、多くの農民の心を掴みました。 著書『農家得益弁』や『新撰米作改良法』は、当時のベストセラーとなり、日本の稲作技術の向上に大きく貢献しました。

秋田での最期:北国の農業を変える

明治23年(1890年)、68歳の専二に新たな使命が舞い込みます。秋田県花館村(現在の大仙市)の豪農・佐々木多右衛門からの熱烈な招聘でした。 彼はこれに応え、寒冷地・秋田へ移住します。

現地では、「働かざる者食うべからず」という勤労の気風を植え付けつつ、乾田馬耕(馬を使って田を耕す技術)の指導や、冬の副業としての養蚕・ウサギの飼育、納豆・豆腐の製造などを奨励しました。また、仙北郡で初となる耕地整理も指導し、現在の秋田農業の基礎を築きました。

明治25年(1892年)5月4日、専二は指導の最中に病に倒れ、秋田の地で70歳の生涯を閉じました。最後まで現場に立ち続けた、まさに「農聖」と呼ぶにふさわしい最期でした。

Information

奈良専二を深く知る「この一冊!」

※香川県三木町の図書館や文化交流センターなどで閲覧可能

本のご紹介

日本の農業の先覚者 奈良専二翁伝 / 編集・発行: 奈良専二翁顕彰会

郷土の偉人・奈良専二の生涯を、詳細な資料とともにまとめた伝記。彼の発明した農具の図解や、各地での指導の様子が克明に記されており、明治の農業史を知る上でも貴重な資料です。(※香川県三木町の図書館や文化交流センターなどで閲覧可能です)

📍【保存版】奈良専二の足跡を辿る — ゆかりの地・史跡リスト

奈良専二の足跡は、生まれ故郷の香川県と、最期の地となった秋田県に色濃く残されています。

【香川県三木町】 生誕と発明の地

  • 池戸八幡神社(いけのべはちまんじんじゃ)(香川県木田郡三木町大字池戸923):専二の生家近くにある氏神様です。参道脇に、彼の功績を称える「奈良専二翁像(胸像)」と顕彰碑が建立されており、ここが実質的な「生誕の地」のモニュメントとなっています。
  • 三木町文化交流プラザ(香川県木田郡三木町大字鹿伏360):町内の文化施設で、図書館等に奈良専二に関する資料が所蔵されています。

【秋田県大仙市】 晩年の指導と永眠の地

  • 長福寺(ちょうふくじ)(秋田県大仙市花館上町11-9):専二が眠る墓所(奈良専二之墓)があります。故郷を離れ、秋田の農業発展に尽くした彼を慕い、地元の人々によって手厚く葬られました。
  • 大仙市アーカイブズ(秋田県大仙市大曲館野):旧大曲市域の歴史資料を保存しており、奈良専二の指導記録や関連資料が保管されています。

💬奈良専二の遺産:現代社会へのメッセージ

奈良専二の生涯は、私たちに「年齢を言い訳にしない挑戦心」と「現場主義の尊さ」を教えてくれます。

彼は60歳を過ぎてから新たな学びを求めて上京し、70歳で亡くなる直前まで泥にまみれて指導を続けました。「老農」と呼ばれながらも、その精神は常に革新的で、既成概念にとらわれませんでした。

「農は国の本なり」

 IT化やスマート農業が進む現代においても、彼が説いた「観察し、工夫し、勤勉に働く」という現場主義の精神は、すべての仕事に通じる普遍的な真理として輝き続けています。

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